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言葉と文化
by radiodays_coma13
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幽霊なんかいるもんか!
 夏なので幽霊の話。といっても幽霊の話が苦手な人でも多分大丈夫。というのも僕も幽霊が苦手で、幽霊なんか信じていないからだ。でも、困ったことにその僕は幽霊さんによく出くわす。そんな時、僕は迷わず幽霊を見なかったことにする。なぜなら、僕は幽霊がいない前提でモノを考え、幽霊がいないはずの世界に住んでいるので、幽霊にバッタリ出くわしてしまうと、いろいろと、とても困ったことになるからだ。でも、おそらく、幽霊さんたちもいないことにされてしまって困っているはずだろうと察する。そこらへん、幽霊さんも気を利かせて僕の前に現れないとか、バッタリ出くわしてしまっても、いないフリをしてくれればいいのにと思う。そうもいかないので、ちょっと会釈してから、いないことにさせてもらっている。「まま、そういうわけなので…」とか呟きながら。

 しかし、幽霊なんか信じていない僕なんであるけれど、環境的にはきわめて幽霊に恵まれている環境にある。というのも、ことごとく周りの人間にいわゆる霊能力というものが備わっている。もちろん、僕はそんなもの信じていない。彼らの中にいると、本当は自分の方が特別なんじゃないかと思ってくる。うちの父も、うちの兄も、うちの祖母も、みんな霊感持持ちだ。うちの母は霊感はもちろん、怪談をさせたら町内一のツワモノの呼び声高かった。うちの叔母さんなんか、沖縄でユタと呼ばれる存在だったりして。僕の友達も、僕の先生も、霊感が強くて、僕の元彼女は占い師をしていて、その次の彼女の知り合いは変な宗教の教祖さまをしていて。彼らとの日常会話は「今、そこに頭に斧がささった男の人の霊が通った」とか「あのトンボはおじさんだよ、お盆で里帰りしてるんだよ」とかホントに見えたらちょっと楽しそうな会話をしてくれる。

 僕曰く、彼らはとても想像力が豊かなんだと思う。幼い頃は僕も「そこに誰かが立っている」と言われたら、本当に暗闇のなかに誰かが立っているような気がして、振り向くことができなくなっていた。そんな僕をからかうように兄は、電気の点いていない子供部屋の階段を上がろうとする僕にいつも「三階に怨念ババアがおんねん」とか変な駄洒落をかましてくるのであった。しかし、それを言われた僕にはいつも暗闇の中に正座している怨念ババアの姿が見えていた。おそらく、幽霊に出くわすのは僕の想像力のなせる技である。しかし、本当の幽霊と言うのは想像とか妄想の類とは全く異なる。なんというか、彼らはちっとも幽霊らしくないそうだ。つまり、幽霊とは気がつかない。あとで、ああ、さっきのつり革に掴まってたあの人、幽霊だったね、という具合である。

 小学生の頃の夏休み、隣のおじさんが亡くなった。その次の日、父母の昼食の間、僕は独りで店番をしていた。すると、きっちりと正装した初老の男性が「お父さん、おられますか?」と尋ねてきた。僕は二階の父を呼びに行き、帰ってくると、そこにはもう誰もいなかった。「誰だった?」と尋ねる父に、ふっと僕の口から出てきた言葉は「隣のおじさん」。自分で答えてから「???」となった。なんで?それは明らかに隣のおじさんだったからである。もし、僕がその時にその理不尽に気がついたら、悲鳴のひとつでも上げたかもしれない。しかし、おじさんはあまりにも当たり前にそこに立っていて、当たり前に喋ってきた。だからこそ僕もああそうですかという具合に父を呼びに行ったわけだ。

 いいですか、幽霊なるものがいるとして、いや、いないと思いますが、例えばね、例えば。幽霊たるもの無闇に人を驚かせたり怖がらしたりしちゃいけない。だから僕は嫌いなんです。信じたくないんですよ。かまって欲しいんだったらもっとサービスしなきゃ。気の利いたことのひとつでも言えなきゃダメですね。「やあ、今日も顔色がいいですね」とかさ。言えないから「暗い」とか言われて、いまいち人気者になれないんだな。なにか言いたい事があったら堂々と出てきて、理路整然と説明する義務があります。血がついていたら顔を洗ってくる。髪が濡れてきたらちゃんとドライヤーで乾かしてくる。めそめそと出てきた日には、目の前に正座させて、幽霊がどれくらいありえないかという説教を脚がしびれるまでしますからね。わかりましたか?よく覚えておくように。

 しかし、そんな僕もひとつだけ心配なことがある。僕がお陀仏した後、僕の親類や友人たちがなにかの間違いで僕をイタコかなにかに頼んで降霊した時、僕はどうすればいいんだろう。簡単に信念を曲げるわけにはいかないので、呼び出されたら僕は自分を自己否定しなきゃならなくなる。「僕はここにいません!」と言い張るしかないな。もしくは通りすがりの人のようにさりげなくその場をやり過ごそう。誰かに気付かれても知らんふりだ。僕も彼らに混じって「この人、変な人ですか?」という具合にイタコを見つめよう。バレてしまったかくなるうえは、声色を使って別人の霊のふりだ。「サトムネさんは、今、お留守です~」考えただけでゾッとする。そうならないように、今から幽霊をちょっとだけ信じておいた方が得策かもしれないと思っているこの頃である。
by radiodays_coma13 | 2005-08-15 00:37 | 感覚について
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