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言葉と文化
by radiodays_coma13
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ある部屋とのお別れ
 大阪でのライブのついでに、久しぶりに実家に立ち寄った。久しぶりの街、久しぶりの隣人、久しぶりの行きつけの店。出会うたびに、初恋みたいに胸がきゅーんとなる。僕がいない間もそれらはそこにあるはずなのだけれど、そのことがとても奇妙な感じがする。もしかしたら、僕がいない間、それらは時間を失ってじっと凍り付いていたのではないかと思えてくる。それはまさに手付かずづにされていた僕の部屋に入ったときに最も強烈に感じた。フリーズした時間が雪解けのように流れ出し、あの日のあの時と同じように僕に語りかけてくる。「これだから、いつも片付けに失敗するんだよなぁ。」

 実家に帰る度に荷物の置きっぱなしになった部屋の整頓を親に懇願されているのだけれど、その部屋に入るのさえ億劫なのだ。もう6年もそういわれて、それを成し遂げることができなかった。今度こそと作戦を練って挑むのだが、ぴらっと引き出しから出てくる日記やら、ふとしたものに貼り付けられている昔の彼女のプリクラやらの攻撃にあえなく玉砕を続けてきた。いつも半ば、鬱状態になって「また今度ね」と実家から逃げるように退散する。

 そこには、紛れもない昔の自分が存在していた。幼く稚拙で、身勝手な青年。それでも、やっぱり自分。そこにあるさまざまな、本や作品や画材やデータ、それら点を結んでゆくと、そこに、もう一人の自分のシルエットがくっきりと浮かび上がる。それらのものを捨て去るということが昔の自分を否定し切り捨てるような感覚にさせるのだ。ぴらっとめくったスケッチブックに下手くそだけれど、一生懸命なデッサンがでてくる、ぼわっとその時の気持ちやら匂いやら、部屋の光の具合までがよみがえる。その中からこちらに親しげに声をかけてくる青年「やあ」。ダメだ、捨てられそうにない。

 そこで、こういう作戦をねった。「もう何年もそれなしで過ごしてきたのだから今日からそれがなくたって本当は困らないよね作戦」長い。でもそう思うことにする。えいっとスケッチブックの一ページを破り捨てる。青年が悲しげに悲鳴を上げたような気がする。心が痛む。一気に気持ちが萎える。すべてを捨て去るにはどんな労力が必要なのか、それを考えると気が遠くなる。そうだ、ひらめいた。作戦名は「奥の院壊滅作戦」今度は作戦名らしい感じ。つまり、一番大切にしていたものからごっそり捨て去ればいいのだ。それは、あのうずたかく積まれた荷物の奥の机の引き出しの中にあるもの。よい子の夜のお友達、エログッズたちだ。

 そういうのって、なかなか捨てられないんですよね。「いつかまたお世話になったりなったりしちゃったりなんかするかも」なんて思ってたら、それが積もり積もって、意外な質量になっていたりする。つまり、それこそが、両親にその部屋を手をつけないでくれと言っていた理由でもあったりするわけで。でも、それがもったいないからといって、今の家に、ダンボール何箱もそんなものを送り付けるわけにもいかない。そんなことをしたら、奥さんに逆さ吊りにされる。

 おそらく、こいつこそが敵の正体なのだ。僕はイベントが終わって、深夜3時に帰宅すると、そのまま寝ずに、奴らをダンボールに詰め始めた。奴らの「まぁまぁ、そないに焦らんでもええがな、次のページにはもっとゴツイのがありまっせ」という誘惑に途中何度か手が止まったが、i-podのボリュームをガンガンに上げて、意識をそらした。結果、ダンボール4箱分のグッズたちを詰め終わり、まだ、寝静まる幼馴染の街をエロダンボール抱えて奔走し、ついに彼らを手放した。「達者でな、いい人にもらわれるんだよ」まるで、子猫を捨ててしまうくらい後ろめたい気分に振り返りつつも、やっとその場を離れることが出来た。明け始めた街がとてもすがすがしく感じた。そこはあの昔の暗い思い出に彩られたいつもの感傷的な街ではなく、ほんわか懐かしいあの場所に変わっていた。

 そういうわけで、無事、部屋の一斉清掃は完了した。作戦は大成功だった。なにか大きなことをやり遂げたような気分だった。なんだか、自分自身も軽くなったような気がした。過去の清算。そんなありきたりな言葉が適切かもしれない。ぽわっと昔の自分がそこに現れ、軽く微笑んでいるような気までした。「ちゃんと捨てなきゃ、ちゃんした思い出にもしてあげられないんだよね」。実家からの帰り際、母から「エロ本は全部処分したの?」とさりげなく訊かれ「ハイ…」と頬を赤らめながら実家をそそくさと後にした。
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by radiodays_coma13 | 2006-03-23 23:24 | 考える
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