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言葉と文化
by radiodays_coma13
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失語症のテーブル/「み」の書き方講座
 時々「み」を忘れる。ひらがなの「み」ってどう書くんだっけ?あれ、あれれ、出来上がったのは不思議な渦巻きだったり、豚のしっぽみたいのだったり。わし、これ、やばいのかもしれんと思いながらもその状況を一応楽しんでみる。休日など一日、まったく人と口をきかないでいると、自分がもしかしてしゃべり方を忘れているんじゃないかと不安になることもしばしば。

 あるお喋りな友人にそういう相談をしたら、「僕なんかは、いつもそれが怖くて喋り続けているんだよ」とのこと。「朝からウォーミングアップに身近にあるものの名前を読み上げてゆくよ」。ほほぉう、僕はまだ、甘ちゃんだったよ。でも、実際にそれは病の兆候なのだそうです。あら怖い。本当は怖い家庭の医学みたい。あなたは!「失語症」かもしれません。

 失語症にもいろいろあるんです。というか、実際にはどんな体の変調もきたさないので病と言えるかどうか。ただ、ある日、徹底的に言葉が壊れてしまう。病じゃないといっても、これは、立派な障害です。でも、この失語症なにかとても奇妙。りんごを見て「これはなに?」ある場合には言葉とものそのものの名前が切り離されてしまったり。「犬は猫の仲間?」ある場合には、カテゴリー能力が徹底的に破壊されたり。「愛ってなに?」ある場合には、抽象的な言語を一切使用できなくなったり。

 どこをどうしたら、自分たちが普段使っている言葉の一部がうまい具合に狙い撃ちされて壊れてしまうのだろう。というよりも、興味は人が言葉を喋る仕組みの謎に絞られていきます。そして、その謎を解く鍵、いや、謎解きを面白くするのが、文字をかけない人はほぼ失語症にならないという数字。ゴゴゴゴゴ!面白くなってきましたよ。

 文字ってのはたかだか、数千年の間に人が発達させてきた文化ですね。ってことはつまり、失語症は現代病。文字を知らない人を我々、識字者は阿呆よばわりする。しかし、言葉を忘れてしまうのは我々、文に明るい文明人の方。まず答えとして、声に出す言語能力は人の本能的な部分。識字能力は後天的な部分。失語症はこの後天的な部分をいろいろ込み入ったやり方でこっぴどく破壊してしまう。

 後天的な部分だけ破壊するんならあんまり問題ないと思うでしょう?でも、違うんです。現代人の思考は識字能力によって徹底的不可逆な変化をきたすということです。さて、ここで、こんな込み入った話をしていたら僕は楽しくって、これをおかずに三日三晩寝ずに妄想にふけれます。なので、ここははしょって。つまり、どんな具合にか、人は識字によって自我や愛や過去未来など時間の概念、嘘や真実ということを考えるようになった。つまり、それ以前は、そんなこと考えもしなかったというのだわ。

 ちょっと、俄かには信じがたいよね。でも、とにかくそういうことなの。もっとそのことについて知りたいって人は、えーと、自分で調べて。人は識字によって、自分の言葉をはじめて自分から切り離すことができるようになった。そこで、客観という概念が生まれる。その証拠に識字を持たない文明の人々はそれができない。

 車を説明してくださいという問いに、あなたなら「人をある特定の場所に速やかに移動させるための乗り物」という具合に答えるだろう。しかし、彼らは「わしは従兄弟のジェニカの所にイチゴも持っていく時に乗る」と答える。車はどんなものですかと再度聞き直すと、わかりきった質問するなよ!というふうに「乗れば分かるよ!」つまり彼らにとってモノはモノではなく、身体と切り離すことができない自分の経験の一部である。そして、クルマは「車」とは切り離せないなにかなのだ。だが識字者は時にクルマから「車」が走り去って行ってしまう。そして、文字だけが残る。

 失語症を通すと、人にとって言葉がどんなものであるのかがよく見えてくるように思う。この内容は手短に話できる内容ではない。というかもったいない。チキンの骨の周りの肉を食べないようなもんだ。あそこが一番美味しい。次の機会に拷問でもするみたいに、ジクジクこの話題を責めてやろうと思う。
失語症のテーブル/「み」の書き方講座_c0045997_2271359.jpg
 で、もっと失語症の話が面白くなるために、一度、皆様にも失語症を経験してもらいましょう。10年も前に「失語症のテーブル」というパフォーマンスの舞台を行ったことがある。怖いとか狂気と言われ封印したが、ここに、その演目の一部がふっかーつ!今、ここでイイワケすれば僕が狂気なんじゃなく、その狂気を解剖しようとしただけなのよん。だから全然怖くないのよー。でも、失語症になってもしらないよー。危険と感じたら右上の「NOT」からすぐにドロップアウトね。そんなんじゃないけど、一応…
「APPLE」
by radiodays_coma13 | 2005-03-31 02:28 | 言葉について
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